肩関節外科とは
肩は、人体のなかでもいちばん可動範囲の広い関節であり、関連した骨、筋肉、腱、神経、血管など様々な器官が集まっている部分です。そのため様々な異常が起こりやすい部分でもあります。
ある程度の年齢になってから、肩が痛く腕を上げることが難しい、寝ていても寝返りなどで姿勢を変えると痛くて眼が覚めてしまう、こうした症状を訴えると五十肩とひとくくりで考えられてしまいがちです。ところが実際には、こうした症状を起こすのは、腱板の損傷やその他の筋腱の障害、骨や軟骨、または神経の問題など様々な病態が潜んでいる可能性があります。
また、若年層ではスポーツによる障害をはじめとして、反復性肩関節脱臼、ルーズショルダーなどが考えられます。
このように、複雑な仕組みをもつ肩の故障、疾患には様々な種類があり、しっかりと治すためには、どこでどのような障害が起こっているかを正確に診断し、適切な治療を施す必要があります。
当院では、肩の疾患を専門とする整形外科専門医が診察・治療にあたりますので、肩の症状に苦しんでいる方はお気軽にご相談ください。
代表的な肩疾患
五十肩(肩関節周囲炎)
突然肩に痛みが起こり、電車のつり革につかまることができないほど手を上げることがつらくなるなど、40代から50代にかけてこのような症状を起こす人がいるところから、五十肩(四十肩とも)とよばれるのが肩関節周囲炎です。
人によって、症状は様々ですが、つり革のほかには衣服に袖を通そうとするとき、棚の上にあるものを取ろうとするときなど、日常動作からゴルフでスイングができなくなるなどの運動痛、夜寝ようとして横になると肩がじんじんと痛んで眠れなくなる夜間痛などが挙げられます。
原因としては、主に加齢によって肩の関節周辺にある骨や軟骨、腱や筋肉などが炎症を起こしてしまうためと考えられています。
痛みは自然に治ってくることもありますが、放置していると関節の可動域が大きく狭まってしまうこともあります。肩の動きに違和感、痛みを感じる方はお気軽にご相談ください。
肩腱板断裂
肩関節は上腕骨と肩甲骨(関節窩)で構成されています。この2つの骨を直接つないでいる筋肉はインナーマッスルとも呼ばれますが、これが腱板です。腱板は単一の筋肉ではなく、棘上筋(きょくじょうきん)、棘下筋(きょくかきん)、肩甲下筋、小円筋という4つの筋肉で構成されています。肩関節自体は比較的不安定な関節ですが、この腱板がインナーマッスルとして働き、また三角筋がアウターマッスルとして協調して働くことで、肩関節は安定性を保ちながら細やかな動きができるようになります。
この腱板が何らかの原因で切れてしまった状態が肩腱板断裂です。多くは筋肉と上腕骨の付着部で断裂が起こります。
中高年の方に多く、腕が上げにくい、腕を上げたり下ろしたりする際にひっかかりを感じる、痛みを感じるなどの症状があらわれます。
多くの場合では消炎鎮痛剤の投与や肩関節への注射に加え、リハビリテーションを行うことで症状改善させることができます。ただし、症状はなくなっても一度断裂してしまった腱板が再び自然につながるということはありません。このため、症状や必要性に応じて、腱板を修復する手術を行うこともあります。
石灰沈着性腱板炎
ある日突然寝ていて肩に激しい痛みを感じることから始まる石灰沈着性腱板炎は、肩腱板内に付着したリン酸カルシウム(石灰分)結晶によって急性の炎症が引き起こされ、激しい痛みや肩が上がらないといった症状を起こします。40~50歳代の女性に多い疾患で、石灰分はX線に映りますので、X線検査によって診断できます。
多くは消炎鎮痛剤の内服やステロイド注射などの保存療法で改善しますが、症状が緩和されない場合、手術によって石灰分を除去することを検討します。
インピンジメント症候群
腕を挙げていくときに、ある程度の角度までいくとひっかかりを感じて、そこから先は挙がらないという症状の疾患です。肩関節を動かすときに、腱板や腱板の外側にある滑液包が巻き込まれて、関節の隙間に挟まってしまうことで起こります。
ボールを投げる動作が多いスポーツ選手や、加齢によって肩の骨が変形してトゲのようなもの(骨棘)ができてしまった人などによく見られます。
治療は、消炎鎮痛剤の内服やステロイド注射に加え、リハビリテーションを行い、スムーズに肩を動かす訓練をします。
拘縮肩
拘縮肩では、五十肩の症状が悪化し、肩の動きに制限が加わります。
長期間、ケガや病気によって肩の炎症が続くと、徐々に肩の関節包が硬く、関節が周囲の組織と癒着してしまい、肩を自力で動かすことが困難になっていきます。
炎症を早い時期におさめる必要があるため、消炎鎮痛剤の内服、注射などを行い、同時にリハビリテーションで筋肉の衰えを防ぎ、可動域を確保するようにします。しかし、骨折などが原因の場合や、治療が長引き、リハビリテーションの効果も十分に期待できない場合は、手術療法を検討することもあります。
反復性肩関節脱臼
肩関節でいわゆる脱臼癖が起こってしまったものが、反復性肩関節脱臼です。具体的には、スポーツや事故による外傷などから肩関節を脱臼してしまい、それがくせになってしまった状態が挙げられます。
肩関節は、支えている部分が小さく可動域が広いことが特徴ですが、不安定な関節でもあります。そのため、一度脱臼を起こすと関節を支えている関節唇や関節包といわれる組織の損傷が起こり、再び脱臼を繰り返しやすくなってしまいます。これらの組織の損傷は自然治癒が難しいため、根治するためには手術を行うこともあります。
変形性肩関節症
変形性関節症とは軟骨が減って関節の変形を来たす疾患です。股関節や膝関節など、体重の負荷がかかりやすい部分で起こることが多いですが、肩関節でも同様の変形が起きることがあります。
腕を上げにくい、肩を動かすとゴリゴリ鳴って痛い、このような症状にお困りの方は手・肩の治療を専門とする当院までご相談ください。
治療は、消炎鎮痛剤の内服、関節注射やリハビリテーションなどで痛みを抑え、必要に応じて人工肩関節への置換手術を行います。
スポーツ肩障害
野球やバレーボール、テニスなどボールを投げたりラケットを振ったりするスポーツは肩の障害が発生しやすいスポーツです。
肩を動かしたり支えたりしている筋肉の力がアンバランスになり、肩関節をスムーズに動かせていないことなどが原因で動作時の痛みが生じます。過度な運動をいったん休止し、筋肉のアンバランスを調整するようなリハビリテーションを行っていくことで自然と治ることが多く、スポーツ肩障害の9割程度近くは手術を行うことなく治すことができます。
しかし、残りの1割程度は肩関節の構造物に何かしらの損傷を認め、場合によっては手術が必要になることがあります。適切な治療を選択いただくためにも、当院までご相談ください。